a. 特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocytopenic purpura, ITP)
血小板に対して自己抗体が産生され、抗体が付着した血小板が脾臓により破壊されると血小板減少症となりますが、このうち原因が明らかでない場合を ITPと呼びます。全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、悪性リンパ腫、薬剤起因性など、血小板減少の基礎疾患が存在する場合はそれらの疾患の一症状であり、ITPではありません。ITPは 急性と慢性に分類され、急性は小児に多く、発症に男女差はありません。発症の数週前に上気道感染症や発疹などのビールス感染症にかかることが多いとされ、通常数週間から数ヶ月で自然に回復します。慢性型は女性に多く、徐々に発症しますが、数年以上持続し自然寛解は稀です。
症状
血小板減少による出血傾向が主な症状です。数ミリから数センチの点状出血や斑状出血が上下肢や胸背部に出現しますが、広範な出血斑は起きません。時に口腔内出血、鼻出血、血尿、性器出血が起きます。 一般的には血小板数が5万/μl 以上あれば(正常の血小板数は 15-40万/μl)出血傾向はなく、軽度のITPは従ってほとんど症状がないことがよくあります。血小板数が2万/μl 以下の場合、消化器出血、脳内出血の危険性があるとされますが、実際 ITPによる血小板減少が致命的な出血を起こすことはほぼありません。
診断
ITPの診断は基本的には 血小板減少があること、骨髄において血小板を産生する巨核球数が正常またはやや増加していること、血小板減少症を起こす原因疾患がないことの3点からなります。血液の検査では、赤血球数や白血球数が正常で、血小板数のみが低下しています。末梢血では血小板減少が認められるにもかかわらず、骨髄では血小板を産生する巨核球が正常ないし増加しています。これは血小板減少症に対しての代償反応と思われ、ITPでは血小板の破壊が亢進し、骨髄は反応性に血小板産生が亢進していることを示します。 血小板に対する自己抗体が原因となる疾患であり、検査上 血小板結合免疫グロブリンが増加していることが多いとされますが、 ITPでなくとも血小板結合免疫グロブリンが認められる症例もあり、その判断には注意が必要です。
治療
ITPは 自己抗体が結合した血小板が脾臓で破壊されることで発症する疾患です。そこで1) 抗血小板抗体の産生を抑制すること、2) 脾臓における血小板取り込みを抑制することに 2点が治療の目標となります。 まず、最初に行われる基本的な治療法は、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン 1 mg/kg/日)です。約4週間行い、血小板数が増加した場合は副腎ステロイドを徐々に減量します。この治療により約80%の症例で血小板数が増加しますが、副腎皮質ステロイド減量中に再び血小板数が低下する例も多く、最終的に完全に回復する例は約20%と報告されています。副腎皮質ステロイドの副作用としては、易感染性、糖尿病、骨粗鬆症などがあり、治療中に十分な注意が必要です。
副腎皮質ステロイドの効果がない場合や、減量により再び血小板数が減少する場合は、脾臓を摘出することを考慮します。摘脾の有効率は高く、副腎皮質ステロイドが無効な症例でも約50%で 血小板数の増加を認めます。しかし、急性ITPのように自然寛解する例との鑑別が時に困難であること、また摘脾は易感染性等の副作用もあることより、初診から6ヶ月以上経過を観察してから摘脾の決断をします。現在では開腹手術でなく、腹腔鏡下での摘脾が行われるようになり、手術創が小さいこと、入院日数が短縮できるなどの利点があります。
副腎皮質ステロイドも無効で摘脾の効果もない場合、また摘脾を希望しない症例では、免疫抑制剤の治療を行います。アザチオプリン(イムラン)、シクロフォスファミド(エンドキサン)などが一般的に使用される免疫抑制剤であり、副腎皮質ステロイドとの併用でより効果を示すとされています。免疫抑制を起こす薬剤であり、易感染性には十分に注意が必要です。
最近になり ITPの患者にヘリコバクターピロリ菌の保菌者が多いこと、除菌をすると半数以上の症例でITPが治癒することが明らかにされました。はっきりとして原因はまだ不明ですが、現在では ヘリコバクーピロリ菌の保因者であれば、ステロイドを使う前に 除菌をすることが勧められ、この治療は保険適応となっています。
1.貧血
血液は赤色ですが、これは赤血球の中にあるヘモグロビンという蛋白のためです。ヘモグロビンは酸素を運搬する機能を持つ蛋白ですが、血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態を貧血といいます。貧血の原因はいろいろあるのですが、その中でも鉄欠乏性貧血が最も頻度の高い疾患です。
a.鉄欠乏性貧血
鉄の吸収が不十分な場合や、消化管や月経など出血により体内の鉄分が低下した場合、鉄欠乏性貧血が発症し、特に妊娠可能な女性の約30%は鉄欠乏性貧血を示すとされています。消化器症状のない、月経過多が存在する女性の場合は、ほとんどの場合貧血の原因は明らかであり、鉄剤の投与のみで済みます。しかし、男性や最近貧血になった閉経後の女性の場合、鉄欠乏に至った原因を究明することが重要です。胃潰瘍等の消化器潰瘍、痔、また直腸ガンからの病的出血が大事な鑑別診断となります。
■ 症状 |
症状としては、体内の各部分へ酸素を運搬するヘモグロビンの欠乏があるため、全身倦怠感、いらいら感、めまい、耳鳴り、動悸、息切れ、頻脈などが起きます。いわゆる不定愁訴と同じような症状ですので、検査をしないと見のがされてしまいます。 また長期間に徐々に進行してきた鉄欠乏貧血の場合、正常人の50%程度の貧血でも全く症状を訴えないこともよくあります。重症例では、痛みを伴う口角炎、舌炎、また食道粘膜の萎縮のため嚥下障害が起きる場合があります。また、稀ですが、爪が薄くなり、反り返るさじ状爪も報告されています。 |
■ 診断
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ヘモグロビン合成には鉄分が必要ですが、赤血球という細胞を作ることは障害されません。そこで、ヘモグロビン合成は低下しますが、赤血球産生は保たれるために、赤血球1個あたりのヘモグロビン量が低下し、赤血球が小さくなります。 白血球数は正常ですが、しばしば血小板が増加します。 血清鉄、また組織の鉄分を示すフェリチンが低下し、反対に不飽和鉄結合能(UIBC)が増加します。UIBCの増加は、体内の鉄分の不足により少しでも鉄分を有効利用しようとして鉄と結合するトランスフェリンの合成が高まるためです。
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■ 治療
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鉄欠乏性貧血の治療は、その原因を明らかにして治療すること、及び、欠乏している鉄分を補うことが必要です。 経口鉄剤には 硫酸鉄、フマル鉄、クエン酸鉄などがあります。鉄剤服用後、数週間から1,2ヶ月で貧血は改善しますが、その後も2ヶ月程度 鉄剤の服用を続けるべきです。鉄剤を服用すると便が黒色になりますが、これは吸収されない鉄分の色で副作用ではありません。鉄分は元々食物に含まれているのもですが鉄剤中の鉄含有量が多いため、副作用を起こすこともあります。最も多い副作用は消化器症状で、食思不振、嘔気、下痢、便秘などが主な症状です。 胃腸障害等で経口剤の服用が困難な場合、また胃切除、吸収不良症候群などで鉄分の吸収が悪い場合、大量出血で急速に鉄分を補う必要がある場合などに、静脈投与することもあります。
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